涼宮ハルヒ名台詞のルーツ

ここ数日引っ張っているネタが不思議な展開を見せてくれました。
飽きずに最後までお読み頂ければと思います。


「涼宮ハルヒの分裂、チラ読み」のラストで使ったネタ、「立ち消え線香」というのは、「はめもの」と呼ばれる種類の落語でして、これは普通の落語と違い、噺の中に三味線の演奏を入れることで、より臨場感が高まる噺となっております。
しかしながら、噺の合間に演奏が入るため、噺家・お囃子共に高度なテクニックが要求されると言われております。


今回ネタにした噺はと言いますと、大体こんな感じでございます。(落語ネタなので、何となく全体が落語口調になっておりますがご容赦くださいませ)

その昔、放蕩者の若旦那がおりまして、あまりに放蕩が酷いためお仕置きとして、百日間蔵に閉じ込められてしまいます。

ところが、懇意にしていた芸者の小糸はそれを知らされておらず、突然若旦那が通って来なくなり、便りを出しても返事も無いため、若旦那の気持ちが離れたと誤解して悲しみのあまり衰弱して死んでしまいます。

百日後、蔵から出された若旦那。
早速人目を忍んで小糸を訪ねると、芸妓屋の女将が出てきて、なんと「小糸は亡くなりました。しかもそれは若旦那のせいです。」とこう言われる訳です。

小糸が自分が来ない事を嘆いて死んだと知った若旦那、小糸の仏壇の前で泣きながら許しを請うているとあら不思議。
仏壇の横においてあった小糸の三味線が独りでに鳴り始めます。それも小糸の好きだった曲が…

ああ、小糸が帰ってきてくれた。あの曲を弾いてくれているよ、許してくれるんだね、と若旦那が涙に掻き暮れながら三味線を聴いていると、曲の途中なのにふっと音が途切れます。

小糸、小糸…せめて最後まで聴かせておくれ…と若旦那が言うと、女将がはっと気付いて言います。

「若旦那、小糸はもう弾けません。丁度線香が立ち消えました。」


芸妓屋さんで遊ぶ際には、線香が1本燃える間だった、という所から来たお噺でございます。


「立ち消え線香」以外に、「立ち消え」とか「立ち切れ」とも言うそうです。
上の粗筋は、僕の記憶モードで、アレンジも入っているので、実際とは違うと思います。


さて、その「立ち消え線香」をモチーフにしたSFがありまして、もう20年以上前に読んだのでタイトルはすっかり忘れてましたが、今回調べたところ小松左京の「天神山縁糸苧環(てんじんやまえにしのおだまき)」と解りました。インターネットって本当に凄いですね。

これがまた、SFというか現代もののお話に、「立ち消え線香」を絡めたもので、元ネタを非常に上手に換骨奪胎していて泣かせる話に仕上がっています。(だったと思います)
機会があれば、小松左京氏のこのあたりの短編は是非読んでみていただきたい、というか再読したいですが、どこに収載されているものやら…。実家に帰ればどこかに埋もれている筈ですが…。


それはそうと、その作品名を調べるために検索してヒットしたのが「落語とSFの意外な関係」 小松左京という記事です。

他にも落語をモチーフにした作品があるという話のほかに、星新一も落語好きだった、という話しから「SF作家協会」を創った時のことに及ぶのですが、その入会資格に笑いました。

そういうたら星新一も落語が好きやったな。おもろい人でな。
1963年にSF作家クラブいうのを星さん達とこさえたんや。

創立メンバーは僕ら以外に、半村良とか光瀬龍、あと手塚治虫、それに筒井康隆とかね。
それでこれから会員が増えるやろうと思てな、SF作家クラブの入会資格を決めよういうことになったんや。

そしたら星新一がね、「宇宙人はダメ。死んだ人はダメ。これは競馬に夢中な奴が中におったからやけど、馬はダメ。4番目が星新一より背の高い人はダメ。筒井康隆よりハンサムな人はダメ。ほんで小松左京より重い人はダメ」言いよんねん。

それでな、一回星さんより5センチほど背の高い人が入ってきたんや。その時星さんがどない言うたと思う? 「足をツメろ!」やて。ひどい話やろ。


いやはや笑えます。
星新一小松左京筒井康隆のお三方は小中学生の頃は本当に大好きで徹底的に読んでました。


ところで、「宇宙人はダメ。死んだ人はダメ。馬はダメ。」って所を読んで、思いましたよ。
やっぱり、谷川氏はれっきとしたSFとして「涼宮ハルヒの憂鬱」を書いたんだ、と。


あれだけの読書量を誇る谷川氏の事、当然このエピソードも知っていた事でしょう。
ならば、それを裏返してアレンジして出来たのが、涼宮ハルヒのあの台詞ではないかと。


「宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」


いや、別に古泉と馬とは関係ありませんが(笑)
う〜ん、こじつけすぎですかねぇ?

まあ、随所に古今東西のSFへのオマージュを放り込んでいる谷川氏の事ですから、これ位はやっていても不思議ではないかと思います。


もともと、「分裂」の冒頭100枚しかないのでふっつりと立ち消える感じからネタにしてみたのですが、何たる縁かきちんと「涼宮ハルヒの憂鬱」に返って来るとは…

個人的には情報フレアの時以来の符合で、感慨深いです。


いや〜、SFって、本当に素晴らしいものですねぇ〜


<参考サイト>
件の記事。小松左京の「くだんのはは」はとても怖い話でした。
「落語とSFの意外な関係」 小松左京


「立ち消え線香」の詳しい内容はこちらに書かれています。
八代目 三笑亭 可楽 師匠編


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