涼宮ハルヒの憤慨

長門かわいいよ、長門

表紙から長門祭りですか、素晴らしい。


<ネタバレ上等!>


収録は2本。

【編集長★一直線】
 ハルヒを退屈させない為に古泉がまたもや仕込んだ結果、文芸部として部会誌を作ることに。

長門の「幻想ホラー私小説」が意味深です。

やはり感情を獲得し、情報統合思念体インターフェイスとしての機能から遊離しつつある、という自覚があるようです。
いずれは情報結合を解いて、情報統合思念体に吸収され、観察結果を報告しなければならない筈の長門有希ですが、潜在意識で拒否してる訳で、だからこそ「発表会に参加する資格がない」のでしょう。

ワンダリング・シャドウ
 クラスメイトの犬に発生した異常は、太古の地球に飛来した「珪素構造生命体共生型情報生命素子」が起こしたものだった。この騒動をSOS団が見事解決!

超常現象がハルヒという誘蛾灯のような存在に引き寄せられるがごとく集まってきて、それをハルヒの知らない間に長門キョンが何とかするっていうのが、シリーズの日常シークエンス(敵役が出るのがストーリーを進行させるイベント)な訳で、そのひとつ。

珪素系生命体っていうのがハードSFしてますねぇっていうか基本。判ってらっしゃる。(この辺後述)

まあ、この話は「長門の初(?)ジョーク」(p.265)に悶え、p.277の挿絵に萌えろっ!ってそれだけでいい、むしろそれがいい。ハァハァ…

以下激しく脱線していきます。

谷甲州「エミリーの記憶」の1994年版あとがきにおいて、作者は「SF冬の時代」と呼ばれた当時、実際に自分より若い世代が版元にSFを書かせてもらえない状況について言及した後、しかしそれは杞憂かもしれないと続けています。

実は注意ぶかくみていると、「SFを書かせてもらえない」若い人たちもそれなりに工夫しているのがわかるからだ。流行のシミュレーション戦記をよそおって本格SFを書いてみたり、ライトノベルのふりをして実はハードな世界設定をつくってみたりと、隠れキリシタンみたいなやり方でSFは書き継がれている。みんな雪どけは近いぞ!(1994年6月版あとがきより)

今回の文庫版あとがきでは、それなりに需給が安定してるという分析ですが、本格SFを書かせてもらえないのでラノベでこっそりやってるというのは慧眼だったのか常識だったのか…

「エミリーの記憶」そのものは、1970年代に書かれた当時は斬新なアイディアだったかもしれないけど今更ちょっとねぇ…、というレベルだったのでこれ以上書きません。っていうか航空宇宙軍史書いてくださいってば。

さて、「涼宮ハルヒシリーズ」では、主人公であるキョンが多用する比喩が意味不明且つ面白くないという論評が多々見受けられますが、これは前述のようにラノベが本格SFの隠れ蓑として使われているからに他ならないと考えています。(えっとすみません、基本的に最近のラノベって奴はほとんど何も知りません。僕が昔読んでたのは朝日ソノラマ文庫や集英社コバルト文庫でしたがw)

それは、長門有希読書傾向でも明らかで、これはどう見てもハードSFオタクです。本当にありがとうございました。って感じです。

そんな訳で、色んな形で本格SF・ハードSFへのオマージュが溢れまくっている訳で、本作「憤慨」で言うと、44ページラスト2行なんかがそうです。

まるでスティンガー対空ミサイルでジュピターゴーストを狙わせるような。異例の事態になるなんてことにな。

じ、ジュピターゴーストキター━━━━(゜∀゜)━━━━!!

ジュピターゴーストとはっ!

小松左京「さよならジュピター」に登場する、木星大気中を浮遊する未確認飛行物体のことです。

太古の地球外生命体の宇宙船と思われており、鯨の鳴き声のような音を出すことから、作中の急進的自然保護宗教団体が木星爆破反対の根拠とするのですが、結局謎が明かされぬまま木星とともに爆破されておしまい、という未回収伏線でした。

まあ、映画が完成するまでは、日本映画でもやれば出来るんだ、小松やれば出来る子、と思っていたんですが…とほほ。

そんな訳で、涼宮ハルヒシリーズについては、語りつくされている感がありますが、SF的観点からって意外に少ないような気がしますって僕が知らないだけかもしれませんが。

例えば、ネット上では、ぽんこつだめっ娘扱いされている朝比奈さん(小)ですが、彼女の役割は現時人を使って自分達の都合の良いように過去を改変する為の道具であり、もっと単純化すれば「キョンを時間遡行させる」ために必要なデバイスという位置付けと考えれば当然のポジショニングと言えます。

そもそも過去に送り込まれる時点で未来の情報を不用意に漏らさないよう記憶や意識をいじられている(しゃべろうとしてもブロックがかかる)訳で、役に立たないのは当たり前です。

その未来人による過去改変を支える「時間平面理論」は、「過去(の特異点)を改変すると未来が上書きされる」という事象を補強する事で、物語に緊張感を与えています。

これが、良くある「パラレルワールド」を使っちゃうと、「可能性のある未来は全て存在する」事になってしまい、緊迫感や対立構図を描く事が非常に面倒になる訳です。
バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズも、それが動機になっていますね)

そんな訳で、SF的に見ても楽しいです。

今回は書ききれませんでしたが、個人的には長門=スポックというイメージでして、これはこれで長くなるので後日、という事で。






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