「声で魅せてよベイビー」
ウィンドバードさんの所で紹介されてて興味を持ち、イラストがヤスさんだったので買った、「声で魅せてよベイビー」を読了。(つーか正確には2/5だけど)
う〜ん、色々思うことあるんで、なんか書こうと思いつつ忙しさを言い訳に放置してたら、少年少女科学倶楽部に、
理系人間の若書き/声で魅せてよベイビー というエントリがアップされてました。
「理系人間の若書き」かぁ〜、流石狩田さん言い得て妙です。
多分、小説技術という点では素晴らしく高いと思う。ライトノベルで地雷処理やっているから当然脳汁だだ盛り話なんぞ腐るほど読んでいるけど、このレベルの脳汁だだ盛り話はそうない。それをこのレベルまで読めてかつ面白く仕上げられるのはたいしたもの。それだけにもったいないなぁ、と感じるんだけど。
全く。
確かに脳汁だだ漏れ(狩田氏は「脳汁だだ盛り」表記ですが僕の気分は「だだ漏れ」なので)だけど、話は良くまとまってて、きちんと盛り上げ決着させてます。
ただ、色々引っかかる部分があるのも確か。
ネガティブな評価するくらいならスルーが基本スタンスですが、今回はちょっと固着してみます。
以下ネタバレ有ります。
これも、「物語としては間違っているんだけど気持ち的には全肯定したい」内容なんだよなー(苦笑)
何というかね、主人公がね、「俺は孤高のハッカーだから、群れない。闘いは独りでするもんだ。」って突っ張ってるとことかね…痛いとゆーかなんとゆーか…ま、若い頃はそんな気持ちになることもありましたね〜って感じです。ポリポリ。
「俺は他人とは違うんだ!」って独善は、実力・実績が伴わなければ単なる「自分以外は全部莫迦」に堕してしまうけど、この主人公はそれなりの実力を持ってるあたりがファンタジーな訳で、しかも父親や「おっちゃん」がハッカーとして格が違う事を思い知らされ、手心加えてもらってた事を知るエピソードを挟んでおくあたり、ほんとこの作者の力量は対したもんだと思います。
主人公は、そこそこ頭が良くて、プログラミング技術では実績もあり、受験も軽く乗り越えられそうだし、さして求めてもいなかったのに可愛い女の子と偶然出会い、その子に頼まれて恋人ごっこをするうちに、本気で好きになっちまう…
いや、ファンタジーだからいいけどさ〜
この主人公ってさして苦労しない(読者にも苦労を見せない?)んですが、孤高を気取る事で、お互いの嫌な面を見て反発したり嫌われたりするようなドロドロした人間関係から逃避してる訳で、それって普通嫌われるよな、なーんて思う私は屈折してます、しまくってます。
まあ、ファンタジーですから、そういう描写を避ける小説も当然あるでしょう。
でもね〜、この小説に出てくる「黒い玉」ってその象徴というか、人間の負の感情が凝縮された物だろうし、避けずに向き合う部分を描いてこそだと思うんですよね。
その「黒い玉」の持ち主であるヒロイン・沙奈歌は「腐女子」として登場します。
かわいい女の子が実は「腐女子」…
そりゃ黒いものも溜まるでしょう。
で、そういう黒いものが破裂する時こそが物語の盛り上がりなんですけど…
そこまでの精神的追い詰められようが伝わってこないから、共感しにくい。共感できないどころか、単なる「イヤボーン」になっちゃってるような気が…。
この程度じゃ単にお仲間が欲しいライト女オタクでよかったんじゃね?と思う訳です。
要するに…
「見せてもらいたいものだな。腐女子の鬱屈の実力とやらを…」
って事はないかとっ!
「腐女子」記号を使うんだったら、別にげんしけん8巻の荻上みたいに、それまでひた隠しにしてきた自分の趣味嗜好を、自分が好きだと思っている人に根こそぎ晒すことになってしまい、羞恥に震えるような、そういうレベルにまで持ってって欲しいもんです。(いや、その…)
或いは、世間様に顔向けできない裏街道を歩く中で、精神的隠遁生活もしくは迫害を受けていたからこその爆発があるとか…
(この辺の一連は敢えて「腐女子」を極端にレッテル化してますが、話を面白くする以上の他意はありませんのでそこんとこよろしく)
主人公の一人称視点なので、沙奈歌の記憶や感情などの直接描写が出来ない以上難しい注文なのは承知の上ですが。
ちなみにその辺に関係しそうな話は丁度短編の方でやってます。(イラストはこちらから、高校時代の沙奈歌)
まだ前編だけですが、どうも腐女子といっても割と浅そうなので、そもそも上で書いたような事は成立しないのかも知れません。むーん、それもどうかと…
という事で、なんかえらい辛口になってしまったけど、けなしたい訳じゃなくて、もっとこう!っていう想いがあるからついつい書いちゃいました。
木本氏の次回作に期待しています。
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